【書評】山崎仁朗編著『日本コミュニティ政策の検証―自治体内分権と地域自治へ向けて』

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【書評】山崎仁朗編著『日本コミュニティ政策の検証―自治体内分権と地域自治へ向けて

村落社会研究ジャーナル 第21巻2号(通巻42号)より (2015年5月29日)

1.本書は問題提起の書である。序章「なぜ、いま、自治省コミュニティ施策を問い直すのか」(山崎仁朗)。Ⅰ部「視点と方法の再定立」、1章「コミュニティ政策の概要と展開」(三浦哲司)、2章「モデル地区の予備的研究」(山崎、谷口功、牧田実)、3章「地方公共団体におけるコミュニティ施策の展開」(山崎)。Ⅱ部「検証―個別事例と全体分析」、4章「宮城県の事例」(牧田、山崎、牧田、牧田)、5章「愛知県の事例」(中田實、中田、谷口、小木曽洋司)、6章「広島県の事例」(大藤文夫、山崎、栄沢直子、大藤)、7章「自治省コミュニティ地区の量的分析」(山崎)。Ⅲ部「展望―自治体内分権と地域自治へ向けて」、8章「福祉国家・地方自治・コミュニティ」(山田公平)、9章「自治省コミュニティ施策の到達点と新たな課題」(中田)。
序章の「本書の視点と方法」(12~15頁)は4点を指摘した。〔1〕「本書の基本的な見方」=「自治省コミュニティ施策は、自治体内の狭域を対象とする統治策であると同時に、自治振興策でもある」。〔2〕「本書の基本仮説」=「自治省コミュニティ施策は、それまでの地域自治の蓄積を継承し、発展させたのではないか」。〔3〕「検証方法としての実証の重視」=「自治省コミュニティ施策についての評価は、自治体や住民が施策をどう受けとめたかという観点から実証的に解明することで、はじめて可能になる」。〔4〕「国際比較の重要性」=「自治省コミュニティ施策は、その普遍的な性格と特殊日本的性格の両面から解明されるべきである」。中心は〔3〕にある。

2.〔3〕はコミュニティの歴史の重層構造把握を要請する。α:旧自治体を幾層にも埋め込んだ合併過程の客観的経緯の側面(序章2頁、牧田22頁)と、β:コミュニティ活動による意味開示の主体的側面である。調べてみると本書の調査対象12地区は、明治大合併体験83%、昭和大合併体験92%をもつ。その中で1970年代からのコミュニティ活動への参画で、地域社会の重層構造がもつ今日的な意味を、地域住民が自己開示している。旧自治体の、村落二重構造の内部における動向を、旧自治省モデル地区、かつ調査時「地域特性」が「農村地域」の、柏崎市中鯖石地区(中鯖石村1901年、柏崎し編入1957年)と、宮城県旧中田町浅水地区(浅水村1875年、中田町1956年、登米市2005年)に関する山崎論文に探る。山崎の分析方法は、昭和大合併まで独立した自治体だった地域単位が、コミュニティ指定を契機に、(a)それまで蓄積してきた「地域自治」を、(b)新たな方法と担い手で復活・発展させる「枠組み」が、行政と住民が一体となった計画策定、部制をもつ「協議会」の、連絡調整機構としての設置と関わり、(c)その実践によって「多様な団体や担い手が噴火し、基礎単位としての集落もまた組織や活動を維持できた」(56頁)と見る点にある。

3.「農村のモデル地区―柏崎市中鯖石地区」。発見された事実は、(a)3、(b)17、(c)12となる。(a)柏崎市編入後も。10集落代表が行う総代会の「地区全体の均衡ある発展と市政協力」の活動、公民館活動が地区の中核だった。(b)それが変容する。中核的活動のコミュニティ活動化への “脱皮“である。協議会に連絡調整機能、5部会(教育振興、環境整備、体育振興、福祉対策、産業振興)設置、教育振興部会の広報活動(「地区の心をひとつに」)、青年クラブの再生。やがて中だるみ。1997年、市のコミュニティ活動と公民館活動の分断に、柏崎方式(コミセン兼公民館、徳間助夫住事の理論)で育った地区コミュニティ協議会長らが立起、対案(柏崎の『新しいコミュニティの理念と提言』)の提出。この “再脱皮”を核に、2003年以後の新しいコミュニティ革命を全市に拡げ、(c)中鯖石の「基礎単位としての集落もまた組織や活動を維持できた」。21さばいし元気塾、地域づくりプラン、部会再編(自然環境、イベント交流、生活安全、学習共有、広報。山崎「農村のモデル・コミュニティ」『コミュニティ政策』5、2007、50頁)。集落デイサービス、世代生生。だが、人口減、高齢化。

4.「旧中田町浅水地区」。中鯖石地区に対する浅水地区の経験を、評者は自治体主導の改革への、地区の“対応の過程”と見る。浅水地区は9行政区をもつ。藩政以来の共同体的集落単位と、町村制以来の旧町村行政区面制を、昭和大合併時(1町3村)の中田町は「区長設置条例」として制度化した。浅水地区の各集落には契約講が22あり、親睦、病気・災害時の援助、葬祭を担う。指定直後のコミュニティ研究協議会は、委員を青年・婦人・壮年・老人各層の代表とするなど、講の組織原理を体現したが、県地方課は中田町の部落行政区では自治への連帯意識が成長していないと評した。そこが中鯖石と異なる。1970~80年代、コミセンは公民館も兼ね、協議会は4部会(総務・女性・文化・体育)を置くが、行事の乱立、中だるみ。新町長就任後、1990年代にコミセン=公民館は転回する。町は公民館運営審議会答申の地域中心・住民中心を、公民館の自主運営化と把握、各地区協議会の当該地区公民館指定管理者化。他方、部会への地区16団体追加、20部会化。登米市政(9町合併)は大震災後の2013年、中田町のシステムを全市に広げ、「指定管理者を地域づくり計画の策定主体」(147頁)とする方向に動く。だが深刻な課題(若い人の働く場所がない、農業をする人が少なくなる、農地が荒れる)が出される。1970年から40年後の人口減少率は浅水、中鯖石とも33%。「生活の場」自体が危機に立つ。

5.〔3〕の追跡調査は〔1=2〕の先にあるもの、コミュニティの制度化、自治体内分権と地域自治の内実を探る作業を含む。中田實は9章でコミュニティ政策・施策・実践の到達点を、高度経済成長期以降の地域社会モデルの提示、コミュニティ組織の育成・支援が国・自治体の政策課題であることの提起、地域課題発掘の取り組みの組織化、地域住民の連帯と参加が地域存立の必要条件であることの提示、地域課題発掘の取り組みの組織化、地域住民の連帯と参加が地域存立の必要条件であることの提示、地縁型組織の役割再認とした。新たな課題では、コミュニティという目標の維持、コミュニティの範囲とその歴史的な背景の探究、地域課題の拡大と諸団体の連携、コミュニティの制度化ある。中田は田原市調査で「校区コミュニティの制度化」(219頁)過程を追った。9章では住民による自治を前提に、条例や規則で位置づけ、委員の選出や各種団体との連携、組織運営のルール等の、一定の民主的正統性確保の側面と、協働の他のパートナー(行政)の、自治の充実とコミュニティの強化に対する責任明確化の側面を指す(376頁)。山田公平はイギリスのLocal Strategic Partnershipの、住民代表公選と意思決定過程への「制度的」保障を、日本政府による地域自治組織の諮問機関化と対置する(349頁)。地方、安芸高田市、下伊那郡阿智村(自治省コミュニティ施策対象外)に、自治体の自治組織づくりの事例を求めた。集落を地域自治の基礎単位に位置づけ、その上の小学校単位で自治組織化を図る。「戦前に由来する行政村と自然村の二重構造が、地域自治の重層構造へと転換」される。つまり自治体と末端の近隣社会との中間に地域自治組織を配置、「権限を充実させ、意思決定過程への住民参加を制度的に保障する」のである(352~353頁。山崎、序章17頁参照)。

6.〔4〕の視点は〔3〕、〔1=2〕理解の学問的土壌だが、日本地域社会把握に係る概念整理の試みでもある。山崎は「地域コミュニティ・レベルの自治を促す制度とは何か」(11-12頁)を考え、町内会=自治体論の自治体内分権論への発展を提起する。本評は〔3〕に注力したが、理論的含みに少しふれる。町内会=自治体論はウェーバーの「アンシュタルト」論に拠る。彼の国家概念は「正当な物理的強制の独占を(結果的に)要求する人間の共同社会」(Weber,1920:8=1979:175,傍点原文)であるが、自治体や町内会も同質なのか。他方で中田は「テーマ型のアソシエーション」(375頁)、山田は「ボランタリー・アソシエーションといったテーマ型の組織」(351頁)と表するが、近隣社会と自治体とを媒介する「住民のアソシエーション」、山田『近代日本の国民国家と地方自治』(1991、139頁)を想起したい。現在、テンニースの主著をJ.HarrisはCommunity and Civil Society (2001)と訳し、G.Delanty (Community,2003:33=2006:46)は、communityとsocietyを “associative life”の異なる種類と捉える。コミュニティ、市民社会、アソシエーション、アンシュタルトの諸連関把握が不可欠である。かつ東アジアの地方自治制度=文化における「郡県」・「封建」、「中央集権」・「地域主権」の、変容把握も関わる。本書が触発した諸課題の学的深化を願ってやまない。

(北海度大学名誉教授 小林 甫 評)

日本コミュニティ政策の検証

【東信堂 本体価格4,600円】

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